最優秀起業家賞
DNAチップで肝臓がんを早期発見
高度に発達した現代の医学。しかし、現代の医学をもってしても、まだまだ不可能なことは多い。例えば、20ミリ未満という小さな肝臓がんの発見、診断もその一つ。この難題をDNAチップを使って解決しようというのがキュービクスのビジネスプランである。DNAチップとはガラス板の上に特定の遺伝子を並べたもの。同社では、金沢大学大学院医学系研究科の金子周一教授の協力を得て、肝臓がん患者に特異的に発現する遺伝子を配置。患者の血液から採った遺伝子と反応させることで、肝臓がんの診断や再発の可能性、時期の予測などに役立つ。DNAチップはこれまで、研究目的に使われることがほとんどで、今回のプランが実用化されれば、医療現場で活用される世界でも初めてのケースとなる。肝臓がんの検査には、従来、超音波を使ったエコー検査やCTスキャンが用いられるが、この方法では初期の小さな病変は見つけることができない。DNAチップを使った検査ならば、病変の大小にかかわらず診断が可能で、がん治療の決め手となる早期発見が実現する。DNAチップの試作、開発はすでに終わっており、現在は、金沢大学附属病院など北陸三県の医療機関で臨床試験の真っ最中だ。同社ではDNAチップの販売ではなく、医療機関から検査そのものを受託して収益を上げる計画を立てている。平成21年から本格的な検査に乗り出し、平成23年度には6億5千万円の売り上げを見込んでいる。
金沢大学が保有するデータと特許を活用
大学卒業後、外資系医療品メーカーに勤めていた丹野社長は、C型肝炎の治療薬の販売に長く携わり、北陸で18年間の営業経験を持つ。そのため、金子教授をはじめ、全国の主要な肝臓専門医との人脈を有している。事業の端緒となったのは、金沢大学が保有する約80万件という世界でも類をみない数の人の肝臓遺伝子データである。このデータの中から肝臓がん患者に特有の遺伝子を特定できれば、診断に利用できるのではないか。金子教授のこうしたアイデアをビジネスとして展開しようと、丹野社長が3年前に設立したのがキュービクスだ。金沢大学では肝臓がん患者にだけ発現する20の遺伝子を特定し、この遺伝子情報を国際特許として出願。丹野社長は事業化に向けて、金沢大学の知的財産を管理する金沢大学TLOとの間で特許専有実施契約を結んだ。平成18年12月にはバイト・食品分野の新事業創出に取り組む企業のためのインキュベーション施設「いしかわ大学連携インキュベータ(i-BIRD)」に入居。平成19年1月には、県の中小企業経営革新支援制度を利用して低利の融資を受けて解析用の設備を導入、5月には遺伝子解析の専門家を採用するなど、ビジネスプランの実現に向け、着実に歩みを進めている。
資本力を強化し、デス・バレー越え
今回のビジネスプランコンテストでは、審査委員から「資金提供検討」の札が2つ挙げられた。資本力を強化したい同社にとってはまさに渡りに船。その後、何社かのベンチャーキャピタルと橋渡ししてもらい、資本力の強化に向けて前向きに話が進んでいるという。ここ10年でベンチャー企業を支援する制度や仕組みは続々とできている。とはいえ、事業が軌道に乗る以前の創業間もない起業に回る資金はまだまだ少ないのが現状だ。研究の成果が製品や事業に反映されるまでの資金的な谷間は通称「デス・バレー」と呼ばれるほど。丹野社長も「ベンチャーにとって一番の難関は資金」と話し、臨床研究データの管理分析や学会の管理運営などの事業と同時に、ベンチャーキャピタルなどからの投資を受け、何とかデス・バレーを越えたい考えだ。また、コンテストでは、CTスキャンによる被爆を心配する来場者から「血液だけで診断できるなら、ぜひ検査したい」と声をかけられ、一般からの関心の高さを実感する場にもなった。「肝臓がん診断用のDNAチップを皮切りに、今後は胆管がんや糖尿病の合併症の検査などにも検査ラインアップを拡大していきたい」と話す丹野社長。地域の知的財産を活用した産学連携のビジネスモデルとして、期待は高まるばかりだ。